研究目的
医療の観点で材料科学の研究者に目指していただきたいターゲットを紹介したい.具体的には多様な波長領域で超狭帯域の LED 光源である.このような光は細胞を刺激してある種の RNA の変化,蛋白質の分泌を促すことが実験的に明らかになっている.この現象は,医療や生化学の広い分野で今後波及効果をもたらすのではないかと考えられ,材料科学と医学のマッチングでこれに向かってゆくことが出来れば幸いと考えている.
研究成果
半導体を用いた LED を光源とし,バンドパスフィルタを用いて超狭帯域光を得る技術を開発した.この光源をヒトの毛髪再生に応用し,有効な臨床結果を得ることができた.また超狭帯域 LED 照射が人の毛乳頭細胞を刺激し,mRNA の発現や蛋白生成が生じる事が分子生物学的に示された.更に皮膚深達度が高い超狭帯域赤色 LED 光照射が毛成長に有効であることがマウスの実験や,又培養ヒト毛乳頭細胞を用いた実験から分子メカニズムモデルが示された.逆に皮膚深達度が浅い超狭帯域緑色 LED 光照射は,創傷治癒に有効であった.
研究不足
LED の超狭帯域化のためには,半導体の発光層において band filling の効果が生じないことが重要である.そのためには発光再結合寿命が十分小さいことが必要である.しかし,640 nm 近傍で半値幅として求められる 10 nm は熱エネルギーにして 30 meV と室温近傍の値に相当する,したがって,発光層として AlGaAs を用いる限り,この要求は現実的にはほぼ限界の値と言える.